6月23日
​14:00～15:30

氣駕 恒太朗
自治医科大学 感染・免疫学講座 細菌学部門 講師

バクテリオファージを利用した次世代創薬研究

細菌などの発育を阻害する抗生物質は、20世紀最大の発見とも言われている。1928年のペニシリン発見以来、人類は多くの感染症を克服し、平均寿命を大幅に伸ばすことに成功した。しかし、治療効果も高く便利な抗生物質を使い続けた結果、薬剤耐性菌（抗生物質が効かない細菌）が蔓延してしまった。今や耐性菌は世界中いたるところに存在し、臨床で使用されているほぼ全ての抗菌薬に対して耐性菌が出現している。その一方で、新しい抗生物質の開発は滞っており、2050年には耐性菌により年間1000万人の死者が出ると予測されている。この危機的状況の中、抗生物質の代替として注目されているのがバクテリオファージ（ファージ）である。
ファージは細菌に感染するウイルスである。実のところ、「ファージの殺菌活性を利用した抗菌療法（ファージセラピー）」は100年近く前から行われていた。つまりファージセラピーは抗生物質以上の歴史がある。ファージセラピーは現在も東欧諸国で行われているが、2010年代後半からは欧米でも実験的治療法が開始されている。我々も「ファージは耐性菌問題の切り札」と考え、5年前からファージ研究を開始した。本講演ではファージセラピーの実施例・問題点に加え、我々が開発した「CRISPR-Cas13搭載ファージ製剤」について発表する。さらに最近になって、ファージの抗菌薬以外への用途が検討され始めている。ファージは安全性が高く、核酸やタンパク質の搭載が可能で、安価に大量培養できるからである。本講演では抗菌療法に加えて、ファージの「創薬モダリティ」としての可能性も議論する。

氣駕 恒太朗​
​自治医科大学 感染・免疫学講座 細菌学部門 講師

博士（医学）。2005年 東京大学 工学部 化学生命工学科卒業。2008年より日本学術振興会特別研究員（DC1）。2011年 東京大学医学系研究科 病因・病理学専攻 博士課程修了。同年4月よりドイツMax-Planck-Institute of Immunobiology and Epigenetics 博士研究員。2014年3月より東京大学 医科学研究所 細菌学分野 特任研究員・特任助教。2016年9月より自治医科大学 医学部 感染・免疫学講座 細菌学分野 講師。2020年よりAMED「新興・再興感染症研究基盤創生事業（多分野融合研究領域）」等の活動を通じて、抗菌性バイオロジクスの研究を推進。